マジョリカマジョルカ

 

フリーアクセス型..

「時代の覗き穴」と

「マジョリカ マジョルカ」

 

 

10代後半の女性をコアターゲットにしたメーキャップ化粧品ブランド「マジョリカ マジョルカ」を例にとって、フリーアクセス型ブランドの戦略・開発の考え方です。

 

1.ブランド開発にあたって

 

<背景>

1990年代後半、メーキャップ化粧品、特に口紅やアイカラー、ネイルカラーなどのポイントメーキャップ化粧品の購入は、フリーアクセスチャネルへと急速にシフトしていました。

 

その要因としては、簡単なメークの知識は雑誌などからの情報で十分であることに加え、メーカー発の化粧法よりも自分流の方が通用するようになり、カウンセリングを必要しなくなったことなどが大きな要因です。

(*フリーアクセスチャネル;ドラッグストア・スーパーマーケット・コンビニエンスストア・繁華街立地の化粧品専門店など、お客さんが自分で自由に選んで購入する業態店)

 

また、会社の帰りや学校の帰りにチョット寄ってみると言った行動が、若い人たちの間で定着し、日常行動の中に組み込まれてきました。買う目的をもって、わざわざ化粧品店にまで行くのではないのです。「何か無いかな」と言った感覚で、何となく寄ってみるのです。

特に、ドラッグストアは、ディスカウントで比較的低価格品が置いてあるイメージと、様々な種類が色々と揃っていて自由に見て選べるといった気軽さも魅力になっています。加えて、探すと言ったアミューズメント性もあるかも知れません。

 

中でも低価格帯(1,000円以下)のメーキャップブランドにとっては、このチャネルが新たな主戦場になっていました。そのことは、これまでのマーケティングでは通じない状況であることを意味します。 

 

これまでは、それぞれのショップの中にメーカー毎に自社のスペース(陣地)を確保し、その中で(自由に)展開していました。それは、陣地を守るという意味合いが強いものでした。しかし、言い換えればそれは、売りの間口として固定されていたのです。新しい商品やブランドを導入するとなると、その枠内で頑張るしかないのです。 結果として、新製品を出すと、その分、古い商品、売れない商品は返品せざるをえないことになります。 

 

一般的に、カウンセリング販売が中心の化粧品専門店は、販売員の人数で売上の上限が決まってきます。もちろん、販売員の能力によって違う訳で、より付加価値が高い販売活動が要求されていますが、ある意味ではそれがボトルネックとなっているのです。

 

それに対してフリーアクセスのチャネルでは、お客さんと接する「面」としての売り場スペース(間口)が売上の鍵を握っています。戦略のポイントはココにあると思いました。人的なキャパシティに対するスペース的なキャパシティです。

 

<実態>

それまで、資生堂の低価格メーキャップ化粧品としては、主婦層向けの「セルフィット」と、若年層向けの「フフ」がありました。しかし、それぞれの力が十分に活かされていませんでした。

 

通常、これらのメーキャップブランドは、一般的に「3 尺6段」と言われるブランド専用の什器(販売台)で販売されています。もちろん、販売員はついていません。そのため、商品自体と専用什器のプレゼンスだけ がコミュニケーションの武器になります。目の前を通るお客さんにどの様に訴えかけるか、目を引くかが勝負の分かれ目です。売れているブランドになると、こ れが2本、3本と置いてあり、強力なプレゼンスとなっています。

 

しかし、「フフ」が導入された際、資生堂の陣地内での展開を余儀なくされていたため、殆どのお店では、既存の「セルフィット」のスペースを割いて置かれました。上下3段ずつに分けられ、「セルフィット」としては半減です。フリーアクセス・マーケティングの原則から外れたこの展開を、何とか解決しなくてはなりません。

 

商品が置かれていれば良いと言うのではありません。それぞれがきちんとプレゼンスされているかが問題なのです。しかし、商品だけは実態にそぐわないままで開発されていました。

 

口紅は2 タイプで、10色と11色の配置が基本になっていて、それを前提に新色の追加がされていました。多くのショップでは各5色しか置けないのにです。そんな状況では、魅力的なブランドには見えません。私が担当することになった時、とりあえず、1タイプに絞って10色のバリエーションが並ぶように変更しました。 お客さんとしても選ぶ楽しみが増えることになったのです。

 

色々と状況を探っていく内に判ったのは、営業部隊が頑張ってそれぞれの専用スペースを獲得してもらうのは難しいと言うことでした。それぞれのブランドを強化して店側と折衝することも考えました。しかし、「セルフィット」のリニューアルが終わったばかりだったのです。また、「フフ」をリニューアルしたとしても、スペース拡張 のインセンティブを与えられる保証はありません。

 

<作戦>

結論としては、新ブランドを投入することにしました。

それが、「マジョリカ マジョルカ」です。このブランドをもって新たな陣地(スペース・間口)の獲得を図ったのです。

 

カウンセリング販売の場合、商品・ブランド数が増えるとカウンセラー(販売員)がこなせなくなります。一人で応対するには限界があり、情報量が増えてカウンセリングの質が低下してしまうからです。前に書いたボトルネックです。

 

それに対し、フリーアクセス販売では、その問題はありません。異なるブランドをいくつか配置し、スペースを多く獲得することは、インストア・メーカーシェアの獲得に有効 なのです。むしろ、顧客接点が多いほど売上に効果があります。メーカーロイヤリティよりもブランドロイヤリティの方が強く働いているため、ポジショニングさえしっかり出来ていれば、社内競合することはないのです。また、マス広告も必ずしも必要としません。むしろ、その費用を店頭でのコミュニケーションや販売什器の整備に使う方が効果的です。

 

「マジョリカ マジョルカ」の納入条件は、新たなスペースがもらえることとしました。これを社内で提案した時、本社営業部門からは難しいとの意見が出されました。しかし、 色々説明して納得してもらったら、次には販売支社の営業現場から難しいとの意見が出てきました。これまでの経験からの発想だったのでしょう。もし、それが 本当で、ダメだと言うのであれば、この計画はやめようと思ったほどです。でも、プロジェクトスタッフの努力で、ようやく意図を理解してもらうことができま した。

 

もうひとつ納入条件を加えました。売上です。営業部隊が頑張ると、全国津々浦々、できるだけ多くの店に導入しようとします。ここに、問題があったのです。ひとつに、無理な納入で前の書いたように既存のスペースの中で分け合って収めてしまうこと。もうひとつは、売上の低い店にまで納入してしまうことです。 

 

メーキャップ化粧 品は特に、新製品や新色追加が頻繁に行われます。スペースが限られているため、売れない既存品がはみ出され、返品になるのです。返品以上に売れているお店であれば利益が出るのですが、反対の場合は赤残と言ってマイナスになってしまいます。こんなケースが結構多くあるのです。

 

そこで、その条件とは、ある一定以上の売上が見込まれる店としたのです。結構、このことが別な面で効を奏し、「マジョリカ マジョルカ」を置いてあることが、その店の宣伝になったりしていました。「マジョリカ マジョルカ ○○%オフ」のポスター・チラシではなく、「マジョリカ マジョルカ あります。」なのです。

 

これは、これまでの売上主義から利益主義への転換です。また、在庫効率を考えた場合、お店にとってもメリットがあり、「Win-Win」の関係が築けたと思っています。

 

 

 

2.ブランド設計のポイント

 

そんな状況を踏まえて開発した「マジョリカ マジョルカ」。その設計のポイントです。

 

いくら新ブランドと言っても、売れそうと思ってもらえないと、売場スペースはくれません。アローワンス(リベート)などの取引条件にもよりますが、限られた店舗スペースを効率的に使いたいからです。

 

そこで重要なのは、どんな商品でどんな販促(宣伝を含む)なのかです。そんな条件をクリアすべく、プロジェクトがスタートしました。

 

<ターゲットの設定>

商品企画、ブランド作りのためには、先ず販売の対象とする客層を決めます。

ドラッグストア回遊層として、10代、20代の比較的若い世代をターゲットにしました。更に、ユーザーのイメージを絞り込みます。漠然と10代、20代と言うのではなく、象徴的な1人の女性像を見つけ出すのです。作り出すと言ったほうが良いかもしれません。

 

その個性の絞り込 み方で、ブランドの個性が決まります。エッセンスを凝縮すればするほど、個性的なブランドが出来上がります。ただ、そのエッセンスが、幅広い人たちの中にあるものか、限られた人たちの中にあるものかによってマーケットサイズが変ってくるので注意が必要です。どちらを狙うかは、ブランドに与えられた使命によって変わります。

 

この時は、先ず大きく10 代に焦点を絞りました。その訳は、10代が新しい価値観をもつ世代であり、20代をコアターゲットとするブランド「ピエヌ」との棲み分けをするためです。そして調査をしてみると、彼女達のライフスタイルや発想は、ピエヌ世代と大きく異なっていることが分かりました。と言うより、これまでの世代と大きな断層 があるように思えました。彼女達が20代になったら、大人になったら、これまでとは違う社会が生まれるのではないかと予感させるものがあったのです。

 

彼女達は、「時代ののぞき穴」なのです。

「時代ののぞき穴」は、若い企画担当者が言った言葉です。10代の若い人たちを見ると、その中に今の時代が見えてくると言うのです。それは何故か? 歳を重ねた人は、多くの経験を積んでいるため、今の時代の情報や価値観をストレート(素直)に受け入れることが出来ません。多くの経験知が邪魔をして、理解できないのです。

それに対し、若い人たちには経験知が少なく、スムーズに時代性が取り込まれます。時代性はどの世代・年代の人にも等しく影響を与えているのですが、年齢によってその取り入れ方、影響の受け方が違ってくるのです。 

 

私は、コンセプトワークの基本軸として次の3つの軸を持っています。

「年代性」、「世代性」、そして「時代性」です。

 

「年代性」とは、 歳を重ねることによって変化する状態です。人生の経験によって生み出される価値観の成熟度であり、身体的な成長・老化などによってもたらされる生理的な現象で、年代(年齢)でほぼ規定できます。しかし、学生・社会人・主婦・子育て・退職・隠居などで置き換えることができるライフステージは、最近は少しずつ 崩れているようです。

 

「世代性」とは、人それぞれが生きてきた時代の価値観が今の彼ら、彼女らの価値観形成に大きく影響していると言うことです。特に、10 代、20代の頃に受けた影響・経験が大きいようです。最近、「シニアマーケット」を研究する上で「団塊の世代」が着目されているのも、そんな背景がありま す。ただの年寄りでは失敗します。もちろん、個人レベルになると同世代=同価値観と言うわけではなく、その人なりに生きてきた背景が強く影響します。

 

そして、「時代性」です。これは、前に書いたとおり、全ての人たちに等しく影響を与えているのです。景気がいい、悪い。アメリカで、ヨーロッパで、どんなことが起きた か。その時代その時代に、様々なことが起き、その情報が絶え間なくシャワーのごとく降り注いできます。しかし、IT化に見られるように、若い人ほど受け入れるのが早く、様々な生活の局面でその影響があらわれる傾向があります。「時代ののぞき穴」で書いたとおりです。

 

コンセプトワークをする時には先ず、これらの軸・視点でのマクロ的な掴みとアプローチが有効です。特に、新しいブランドを開発するときには、欠かせないと思います。

 

「マジョリカ マジョルカ」も、この視点からアプローチを始めました。

加えて重要だった のは、単にひとつのブランドを作るためだけでなく、このことを通して、これからの価値軸を発見しようとしたことにありました。常に新しい価値軸を求めている企画者にとって、時代をピュアな形で見られる「時代ののぞき穴」を常に意識していることが大切なのです。

 

<ターゲットの価値観>

では、何が違ってきたのか。大きく違うのは、「社会的オーソライズ」ではなく、「自分的オーソライズ」です。

 

いつの時代の若者も、モノや情報が溢れた時代に生まれ育った世代と言われていました。しかし、今の若者(10代)は、何か違うようです。いつの時代もそうですが、10代向けの商品企画をするのは、年齢的にも近くてターゲット層の気持ちや価値観が分かる20代のスタッフが担当となります。しかし最近は、そんな担当者でも10代が解らなくなっているようです。

 

「ボーダレス化」 と言われて久しい。でも既に、「ボーダレス化」ではなく、「ボーダレス」の時代に入ってしまったのかもしれません。その中で最も感じるのは「年齢」です。 これまでは、それぞれの年齢・年代なりの生き方や考え方がありました。皆、その枠の中で生きてきました。

 

しかし、そんな考え方が薄らいできたようです。シニアにしても自分は年寄りだとは思っていないように、10代の人達も自分は子供だとは思っていないのではないでしょうか。もし思っているとしたら、20代になった時には、今の20代と同じ行動、考え方をするはずですが、きっとそんなことはないでしょう。「年齢ボーダレス」の時代なのです。

 

年齢のヒエラルキーがあった時代は、良くも悪くも、年上の人達を見て、年上の人達から教えてもらいながら、自分達の生き方を規定してきました。反発するにしても、年上の人達という対象があったのです。

 

今の10 代には、周りに沢山の情報が溢れ、年上からの情報もそのひとつに過ぎないのだと思います。教えてもらうのではなく、情報は自分で得ることが出来ます。そ んな時代環境の中から、「社会的オーソライズ」ではない「自分的オーソライズ」の価値が形成されてきたのだと思います。「環境の変化に合わせて自らを変え、存続する」。まさに、「進化」です。

 

もちろん、他の年代層も等しくこの時代環境の中にあります。しかし、前回に書いたように、時代の空気を素直に受け入れられるか否かの程度に差があります。また、同じ10代でも、あまりにも膨大な情報の中で、路頭に迷う人達も多くいるのも事実です。

 

「自分的オーソライズ」は、全員とは言わないまでも着実に大きくなり、この世代を特徴づけるキーワードになりつつあります。「マジョリカ マジョルカ」のブランドづくりは、そこに着目しました。

 

ファッション情報ひとつとっても、そんな現象が見られます。20代以上向けの雑誌には、頭の上から足の爪先まで、それぞれコーディネートされたアイテムを着たモデルの写真が紹介されています。一種のパターン化されたマニュアルファッション情報です。

 

それに対し、10代向けの雑誌には、アイテムがバラバラにカタログ的に紹介されたページが多く見られます。自分のセンスで選びなさいということです。そして、読者にはそれが出来るのだと思います。自分がいいと思うものを自分で選ぶのです。トータルなイメージは自分の中にあるのです。

 

しかし、それだけ で良い訳ではありません。単品アイテムになればなるほど求められるものが出てきます。それは、アイデンティティです。選ばれるためには、アイテムひとつひとつに、また組み合わせ(コーディネート)の結果、個性が表現できるものでなくてはいけません。主義主張・世界観・性格などが備わってはじめて、共感でき るものとして存在できるのです。単なる素材ではなく、ひとつひとつが情報なのです。

 

<調査>

対象層の共感が得られる強い個性をもった強いブランドをつくる。その作業は、ユーザーイメージを設定し、彼女達の実態調査から始めました。

 

「自分的オーソライズ」のタイプと言っても、具体的にはどのようなファッションを好み、どのような商品を求めているのかは判りません。そこで、お決まりの調査です。あまり 多くのモニターは要りません。代表性があるモニターをピックアップして調べることにしました。始めから適切なモニターばかりを集められることはないので、 少し多めに集め、途中で適切なモニターだけを選別することをしても良いでしょう。

 

先ず、関心があるモノを持って来てもらい、その理由を聞き出すのです。化粧品はもちろんですが、好きな人(歌手・映画スター・作家など)やアクセサリー、インテリアなど何でもOKです。持ってこられないものは、写真や絵でお願いしました。定性的な情報収集なので、モニター数は少なくても、それらから何かを読み取ろうとする のは結構大変です。私の感覚ではとても判りません。読み取り作業は、若いスタッフで行いました。今回の調査は、ファッション情報やトレンド調査が得意な外 部スタッフも入れて行い、納得がゆく結果を見ることが出来ました。

 

ひとつは、こだわりや個性が見え、商品であれば機能に特徴があること。もうひとつは、背景に物語性があって深みがあること。商品の選択はアイテム毎の単品であることはお話しましたが、そのアイテムにこれらの要素が含まれていることが重要であることが判りました。両方の要素が含まれている場合や、どちらかひとつだけの場合が ありますが、意味の無いものは選んではいません。いわゆるクチコミのネタになるくらいの情報性があり、自分自身を表現できるものなのです。その裏には、「自慢」「自主」などの気持ちが感じられました。

 

もうひとつ、若い人達の中にある「チャッカリ」感です。面倒なことにぶつかったら即リセットと言うのと同じ部類に入ります。余り手間を掛けずに高いパフォーマンスを苦労せずに手に入れたいと思う気持ちです。そこから、「まるで魔法のように」と言うキーワードが出てきました。

 

ここから、案として2つの方向性を出しました。

ひとつは、機能が優れている単品の集合体としての見え方を強く打ち出した方向。もうひとつは、それに物語性をかぶせたものです。「機能」の方は比較的に定番性があるのに対し、「物語」の方は飽きやすいと言う危険性があるものの強い個性を打ち出すことが出来ます。

 

どちらを採るかを決めるのは私の仕事でした。選んだのは「物語」。フリーアクセスのチャネルに置かれているブランド・商品の多くは、「単品素材」が陳列されているのが基本 です。その中で差別性を見せるには、単に「機能」だけでは同じに見えてしまうと考えたのです。むしろ、存在感をもち、商品自らが語りかけることが必要だと 思いました。実は、開発を始める頃から私が言っていたのは「怪しそうなものを」でした。「いわく」がありそうで、決して無機質ではない何かが必要だと私自身が感じていたのです。

 

<コンセプト>

「即効変身 魔法のようなカスタムコスメ」をコンセプトにしました。

おまじないのような霊験あらたかな化粧品です。ユーザーの「思いを叶えるツール」としての化粧品。ここに共感軸をもってきました。そして、自分流という意味で、「カスタム」です。

 

クリエーティブのキーワードは、「変身・魔法・秘薬」。「あなただけの思い、願いを叶えます」というメッセージを込めたものです。「商品→店頭→コミュニケーション」と、一貫した世界観をもたせました。強いブランドを創るには欠かせない、ブランディングの基本です。

 

この一貫性が中々難しいのです。特に、縦割りの組織で動いていると、それぞれ違った解釈をするので、当初の設計意図と違ってくることがあります。そこでこの時は、プロジェクトを結成することにしました。それも、各部門のスタッフはこちらからの指名です。その際、私のスタッフに、関連部門の中から自分が欲しい スタッフをリスとアップしてもらうことで、気が合う同士のチームを編成しました。

 

ここまで出来れば、後は簡単です。商品の中味やパッケージデザイン、売場づくり、宣伝広告、広報など、皆がその方向に向かって突っ走って行きました。のめり込んだと言っても良いかもしれません。ひとつひとつが結構凝ったものになっていきました。ここではもう、私の出る幕はありません。若いスタッフの感性がフル回転し、 色々なものが創られて行きました。

 

<商品>

一品一品、こだわりのすぐれもの設計をしました。色や機能など、誰にも好まれる平均的な設計ではなく、特定の機能に狙いを定めて特化しました。使った効果が実感できることがポイントです。メインアイテムは、オートアイライナー。筆ペンタイプで初めてブラック以外のカラフルな色を揃えました。これは計画を大きく上回る売上で、品切れが続出してしまいました。その結果、第二次導入店のための商品が揃わず、発売が遅れたお店があったほどです。

 

パッケージデザインのキーワードは、「秘薬」。すなわち、「秘薬」が入っている器(うつわ)としました。グラフィックのモチーフは、魔術が隆盛した16世紀で 見られる手書きの線やカリグラフィを採り入れました。商品のスタッフだけでなく、宣伝広告のスタッフも一緒に考えることで、発想の広がりが得られました。 それも、気が合う仲間が面白がって自由にやっているのですから、どんどんイメージは広がっていきました。

 

パッケージでは、 様々なアイコンがデザインの中に組み込まれました。その意味を知るのに、まるでTVゲームのような裏ワザ探しが楽しめるように仕掛けられています。口コミ 情報のための仕掛けでもあります。全体としては、一回切りでは終わらない、奥の深い広がりのある情報性が大きな武器となります。 

 

出来上がった商品をベースに、色々なモノが創られていきました。

店頭の販売什器にも凝りました。キーワードは、「秘密の宝箱」。様々な秘薬が入っている宝箱として、店頭でも独自の世界を演出することにしました。

 

<店頭>

販売什器は、フリーセレクション販売にとって非常に大切な役割を担っています。単なる陳列ストック棚ではありません。商品がいっぱい並べられる。見えやすく並べられる。お客さんが手に取りやすい。自分の陣地を確保できる。と言うように、物理的な機能は基本要件です。新商品が出て、レイアウトが変わっても、フレキシブルに展開できることも重要です。汚れにくいというのもあります。しかし、この時は、あくまでもブランドの世界観を表現し、その世界全体に共感して もらえることに注力しました。ワクワク、ドキドキ。目の前に現れる別世界。「私だけの」という特別感も刺激します。もちろん、機能性も押さえた上で。

 

<コミュニケーション>

最後に、宣伝広告です。キーワードは、「秘薬による劇的な変化」。女の子の血が騒ぐ秘薬的コスメティックスとして、左脳に訴えるのではなく、DNAや血に訴えるものとして制作しました。

 

「時代ののぞき穴」だからではなかったのですが、第一弾のCMは「のぞき穴」。これまで知らなかった世界をのぞき穴から見てしまう女の子が出てきます。そこには、魅惑的な別世界が広がっています。そんな世界を知ってしまった彼女は、魔法の道具を使うことで即変身して新しい自分を見つけると言うストーリーです。 ある意味では非現実の世界で、以後、そんな魅力的な世界を提案し続けています。もちろん、魔法の道具はマジョリカ マジョルカ。

 

ホームページでは、そんな世界をもっと詳しく見せています。テレビCMの短い時間では伝えられないマジョリカ マジョルカの世界を、こだわりをもって描きあげました。これとは別に、「マジョリカ マジョルカ同盟」なるファンサイトもでき、同好会的な情報交換が行われています。ユーザーと直結したコラボレーションで「マジョリカ マジョルカ」の進化が始まりました。  https://www.shiseido.co.jp/mj/

 

 

3.マーケティング

 

<販売施策>

フリーアクセス・マーケティングと言っても色々あります。ここでは、マジョリカ マジョルカをベースにして私の考えをまとめました。

 

マジョリカ マジョルカは、メーキャップ化粧品。それも、口紅やアイカラーを中心としているため、余りカウンセリングは必要ではありません。アクセサリーなどを選ぶように、自分の感性・好みで気に入ったモノがあれば、衝動買いのように買ってしまいます。私は、化粧品のアクセサリー雑貨化と言っています。もちろん、テレビ宣伝などを見て購入することもありますが、その比率は昔に比べて低くなっています。

 

また、ドラッグストアやコンビニ、スーパーなどのフリーアクセス型の売場に、必ずしも目的買いで来店している訳ではありません。暇な時間、何かを探しに来ているのです。会社や学校の帰りに何気なく寄り道したりする場所なのです。私が会社の帰りに、何気なく本屋に立ち寄るのと似ていると思います。

 

そこで必要なのが、店頭でどの様にしてお客さんを待ち受けるかです。販売員はいないので、商品を認知してもらうには、商品そのものやPOPと呼ばれる販促物がポイントになります。従来のメーキャッププロモーションのようにテレビや雑誌広告を大量に投入し、春と秋に盛り上がりをつけて売っていく時代では無くなりました。むしろ、フリーアクセスの売り場では、年間通じ、比較的安定して買われて います。365日が売り時で、プロモーションなのです。

 

まずは、売り場の確保と整理です。商品・ブランドの存在がきちんと見えているかと言う、売り場確保のための交渉とメンテナンスがポイントです。そして、陳列してある商品それ自体が魅力的である必要があります。よく、商品の特長を言わんとばかりに、商品以上に文字情報が前面に出すぎている場合があります。文字情報で済ませてしまわないで、なるべくビジュアルで商品の魅力を見せるように心掛けた方が良い結果が得られると思います。店頭では通りすがりの一瞬で決ってしまうと考える、どちらが良いか現場で確認することが大事です。 

 

マーケティングコ ストが余っているのであれば別ですが、テレビや雑誌広告を少なくし、極力店頭でのコミュニケーションを充実・工夫する方が大事なのです。ロケーション、スペース、表現(ブランドイメージ)、ビジュアル訴求、ベネフィット訴求、価格表示、手に取りやすさ、見本品の使いやすさ、メンテナンスにしやすさ・・・・・などなど、店頭でするべきことは沢山あります。腕力(お金)ではなく知恵の出しどころですね。

 

加えてもうひとつ。店(バイヤー)側の協力も必要です。バイヤー折衝は、バイヤーの言うことを聞くことではありません。こちらの要求を受け入れてもらうことです。そのために必要なのは、お店にとっても得になる施策でなくてはならないのはもちろんです。折衝は、お願いでなく、納得であるといえます。それには、コラボレー ションのスタンスが重要です。いかに「win-win」 の形を作るかです。これも「企画」で、「くわだて」です。

 

<フリーアクセスのチャネル>

フリーアクセスのチャネルと言っても様々です。一般的には、ドラッグストア、スーパー(食品スーパーからGMSまで)、コンビニ、ホームセンター、そして繁華街立地の化粧品店などがあげられます。更にネット通販なども含まれますが、ここでは外して考えます。 

 

これらのチャネル(業態)は、これまで、それぞれの機能形態を生かして成長してきました。そして、メーカー、卸は、それに合わせるべく様々な対応をしてきました。小売り業態の変化に引きずられて来たと言っても良いでしょう。

 

今、もっとも勢いがあるのが、ドラッグ業態です。しかし、そのドラッグ業態も大きな転換期を迎えつつあります。元々は、ドラッグの名前のとおり「薬」の販売が中心でした が、今や化粧品のウェイトが高くなり、化粧品市場で見てもトップ業態となったほどです。最近では更に、食品も導入されるようになっています。

 

売り方としては、薬剤師による薬品のアドバイス販売以外は、基本的にフリーアクセス。薬品のディスカウント販売をベースにしてきたため、割安、低価格の品揃えがされています。

 

しかし最近になってこのドラッグ業態も行き詰まりを見せ始めました。過当競争も手伝って、売上の伸び悩み、結果としての坪効率、利益率の低下が顕れ始めているのです。

 

そんなことを背景として、大きく2つの方向が打ち出されています。ひとつは、規模の拡大によってバイイングパワーの強化。食品や日用品の低価格による集客と利益商材である薬品で利益をとる戦略です。もうひとつは、売り方やサービスを変えることによって付加価値を追求していく戦略です。顧客管理がしっかりしたH&BC(ヘルス&ビューティーケア)の専門店を目指しています。

 

これからメーカーとしては、どちらをとるか?  もちろん、客寄せ値引き用の商品にしたくはありません。如何に付加価値がある商品を創り、付加価値が発揮できる販売をすることで、メーカー、販売店、そしてお客さんが満足できるようにするのが本道です。

 

そのように考えると、これまでフリーアクセス型の企画を指向してきましたが、ここらで方向転換をする必要が出てきたような気がします。もちろん、フリーアクセスの要素は基本として引き継がれていくと思いますが、ドラッグストアなりの付加価値とは何であるかが課題です。

 

コンビニエンスストアもしかりで、大きく、そして業態内容が激しく変り始めています。質販化、100円食品ショップ化、飲料の値下げ等々です。ここでも十年一日の売り方はしていません。出来なくなってきたと言っても良いでしょう。

 

これらに見られるような状況に対応するには、変化を先取りする売り方の開発と提案が必要です。それにふさわしい商品の企画が求められています。ボーッとして市場/時代に取り残されるのは論外なのです。

 

5年後、10年後に、フリーアクセス業態はどの様になっているでしょうか。フリーアクセスでは無くなっているのか、新たな形のフリーアクセスが生まれているのか。その時、お客さんはどんな気持で、どんな購買行動をとるのでしょうか。

 

商品企画は、単なるアイデア勝負ではありません。市場研究、消費者研究などの基礎的な作業の中から、実効性がある企画が生まれてくるのです。そして、それを早く提案し、早く導入したメーカーが次の時代の勝者になるのだと思います。

 

最後にもう一言。

先を見越した新たな提案と言っても、絶対に正解というのは無いでしょう。むしろ、早く提案し、早く受け入れられた形・価値がデファクトスタンダードになるのかも知れません。